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のぼりです


足湯

今年からスタートした、月の上旬の「全国津々浦々〜探訪」。

旅の目的は幾つかありますが、その過程の殆どは見知らぬ土地や街の一人旅ですか

ら、何か気になればサッとそこに行き確かめては触れ、いい匂いが流れていれば、

昼食を摂ったそばからまた暖簾をくぐる事もあります。


若い頃窮屈に感じ暮らしていた地元を離れると、猛烈に食欲を覚えるタイプで、

それが初めての土地を通りかかるや、ありとあらゆる食に関する看板や店の佇まい

が気になり、そんな気分になったのがまた嬉しくてたまらない。


迷う間も無くこれと定めた店に入るのだが、特段に美味いも凄いもなく、せいぜい

普段の倍の量で満ちてしまうくらい
の楽しみ方なのだが、周りを気する事なく

見知らぬ街の見知らぬ人の中にいる事に安心する生き方に改めて歪さを思いながら

も、
どうしようもない事としてその先へとまた車を走らせる。


そんな若い頃に比べたら、ずいぶんと身の回りの実状は変化して、家にあっても自

分らしく有り外に生きてもまたそうと出来ていると思える事で、自分のここまでの

月日の長さを感じる事もある。旅にあっても特別感動する事も、はしゃぐ事もまず

ないのだが、そうかそうかここが例の所縁の場所か、ここから発して歴史の一節と

始まったのかと、
目的の一つに接しても淡々と個々の課題の符をみては安心と納

得を繰り返す。

知らぬ事もやっと訪ねて目にしては触れ確かめ納得するのだが、なぜか安心と納得

としか言い表せない。

まるで積年の募りを少しずつ果たす事に律儀な感じだが我が事においてその感覚

が自然でありのままだから、そうする時間に委ねている自分は有り難いとも思う。


若い頃の食い気優先が減り、風光に驚いたり
頬がゆるんだり、風の音や匂いや川の

冷たさや岩のゴツゴツやツルツルに、ただ佇んだり寝転んだり、触れては叩きをし

ては、何をもとめるでもない自分に困りながらも、「ふん」と一つ
小さく発してそ

の場を離れる。


昼間のうちは
何処の田舎にもあまり人が見受けられない。通りすがりに子どもの姿

はまず見ない。若者の姿もまず見ない。往来に誰も見ないのは普通の景色になり、

時折畑で作業をしている人がいたり、乗り合いバスかタクシーの乗降場所に立つ人

がいるが、たいていお年寄りだ。


過疎が進み、廃村や限界集落の数は増え、否応なく都市部へ街へと老いてよりその

身を預ける人は徐々に増え、人がいなくなる事で風土は衰え伝統は散り、いつしか

歴史の片隅にあり続けるしかなくなる。

築き構えるには膨大な労力と時間と思いの蓄積があってこそだが、失せる気配が立

つ頃にはもはや誰にもその流れは止められず、僅かの時間でそこに行き着く。


今集まり栄える街ですら、それまでの繁栄の条件とは異質が徐々に増し、抱える衰

退の要件のみが確実に重くなっていく。

国の栄は街の栄は、数字で表されるものは一目瞭然とそこに説得を持つが、その背

景にある
例えば高齢化少子の現実の近未来の不安への説得は何処にも見当たらな

い。
まるで誰にも見えず誰にも語れぬ深海の脅威の如く。


その空を仰ぎ見て、「国も人も栄えては衰えまた栄えては〜」と口にするのは楽だ

が、人の想像
の限り届かぬ時間の先の話には、なかなか集中する意欲も力も湧か

ないものだ。

なんとかしながら、なんとかしていくさと強がる事は忘れはしないが

つまり我が事は何十年も我が身に語りかけていた事をこれからも続けていくしかな

いのだと、妙に
吹っ切っては安心して納得する。


あまり景色も目に入らぬままに
、海に近いさる温泉町に着いた。

駐車場に車を止めてリュックを肩にかけぶらついてみようと思い立つ。

ここもその昔なら日本人の誰もが知った温泉場だったはずだが、昼間の街の顔は特

に悲惨で一瞬後悔も湧く。

この街で年間の動員客はいかほどか、それでも数多い宿やホテルを一望しては、ま

たまた普段の会社関係の仕事の延長でもの事を捉えてしまう。


昔借金で苦しんだ分、何処の宿の経営者も爪先だった必死の思いでいる気がしてな

らないのだが、慣れると
またそれが日常と思う

そこに生きるしかないと覚悟する人の心の強さも太さもまた思う。



街の中ほどに無料足湯場があ
った

滅多に足湯は楽しまないが、今日はなんとなくその気になる。

先客に婆さん三人がいる。黙礼して脚を浸す。その三人がジッとこちらを見つめて

いるのがわかる。自分らより若いのか上か、いったい何者ぞ、とでも言わんばかり

の視線を感じるが、こちらもそれ
無視する位の歳は重ねているからひたすら湯加

楽しむ。

一通りの検分は済んだのか、やおら婆さん達が声高に会話を再開する。

どうやらそのうちの一人が老人施設に入るようで、身の振り方や家土地の処分の苦

労や、子どもへの不満の語り合いに私がのっそり、闖入したらしかった。


一度再開すれば害なしと見られたこちらの存在は無きに等しく、時折チラチラこち

らを眺めながら
それは尽きる事はないようだ。途中湯から足を上げ板に横になり

ながらまだまだ止まらない。

ああなるほどあれなら長く浸ける事も出来るなと、私もゴロンとなる。途端にまだ

粘る気かいなと、一瞬の無言
がありまた話し始める。


空は高々と青くトンビ一羽が遠く飛ぶ。眼を瞑る頬に風が心地よく束の間頭の中


白く染まる

何を求めて何処に向かって行こうとするのか、いつしか婆さん達の切なさに同化し

たのか、自分の行く末があれこれ頭をよぎる。


「さぁて、お弁当にしましょうか」と婆さん達の掛け声で目
を開ける。あんたのお

弁当は、私のおかずはと、またまた賑やかしい。
どうやら横のベンチでの昼食タイ

ムらしい。

起き上がる時三人がニヤリと私を見る。

来た時とはずいぶんの違いに少し心も和む。

サッと足を拭きまた黙礼して三人と別れる。



再び街歩きを始める。

さっきの一人の人の話が耳について離れない。「生まれてくる時も一人、逝く時も

一人。だからこそせめて元気な今は愚痴っちゃならねぇと言い聞かせてみるんだが

どうにもならん事が多すぎる」


心地よい風はまだあり、空腹もまだ感じず、今日はひたすら疲れきるまで歩いてみ

るかと、また空を見る。

ハーッと吐いた息がたちまちに空に吸い上げられた。



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